昨晩は支部薬剤師会の研修会があり、コミュニケーション論でお馴染みの井手口直子氏の講演を拝聴してきました。
薬剤師におけるコミュニケーションの重要性が言われるようになったのは最近の話ではなく、多くの人がその必要性を認識し、取り組んでいることと思いますが、今回お話を聴く中で「Narrative based Medicine」について触れられていましたので、ご紹介しようと思います。
「Narrative based Medicine(NBM)」という言葉そのものは聞いたことがある人も少なくないかもしれませんが、今ひとつピンと来ていなかったのではないでしょうか?正直に言いますと、実は私はその一人です。
Narrativeという言葉は「物語」という日本語に置き換えられます。すると「物語に基づく医療」という話になって、今ひとつ理解しにくいし、EBM(Evidence based Medicine)の方がよっぽど明瞭ではないか?という感覚を持っていました。
ただ、氏の話を聞いている中で、どうやらNBMというのは、EBMの一歩先を行く概念であり、とっつきにくさ、理解されにくさというのが解消されて行く中で、多くの場面で必要になってくるのではないかと感じました。
特に、薬剤師においてはNBMというよりも、Narrative based Pharmaceutical Careであり、患者、医療者の双方が納得する新しい物語の橋渡しする役割として、大変重要な位置づけともなりそうです(もちろんきちんと仕事をすれば、という話ですが)。
まだまだ私も理解が不完全で、書いているうちにワケがわからなくなってきていますが、Narrativeの部分に重きを置いた考え方、行動というのを意識してゆくことが増えそうです。
講演後はご一緒させていただき、ゆっくりとお話を伺うこともできました。「コミュニケーション論の達人」の前では、一挙手一投足から私の考えがすべて「お見通し」なのではないかと少々ヒヤヒヤでしたが、とても有意義な時間となりました。ありがとうございました。
私も「斜め45度ポーズ」を決めてみましたが、決まっていませんね…。

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▽ 薬剤師のためのコミュニケーションスキルアップ


コメント
うちのおふくろがずっとやっていることですね。
実践型のいいお手本は実は近くにいるということですね。
あとは、継続できるかどうかがカギですね。
NBMについては、私は、それほど理解があるわけでなく不確かな理解のままで恐縮ですが、以下、気づいた事を述べさせていただきます。
① NBMがEBMよりも一歩進んでいる、というのは驕りではないか?
→ 私は、EBMをそれほど万能視しているわけではないのですが、せいぜい、両者は対極にある概念として捉えるべきであって(漢方における陽と陰などのように)、EBMがNBMに置き換わっていく、と思わせるような表現は適切でないでしょう。
② 専門性と物語性がバッティングするとき、物語性を重視しなければならないのか?
→ 例えば、それほど厳密性を重視しない生き方をしてこられた患者さんで、治療においてもその「物語」の延長線で望もうとしている患者さんがいるとします。その患者さんに、点眼液(薬学上、1日4回でないと、期待された効果が発揮されないと仮定する)が処方されたとして、以下の会話がなされたとします。
薬剤師「この点眼液は、1日4回です。点眼のタイミングは厳密に決まっていないのですが、朝・昼・晩・寝る前が、一つの目安となります。」
患者さん「ああ、1日4回程度ね。」(←実際、こういう患者さんはたまにいます。)
このような場合、専門性重視だと、
薬剤師「回数は、4回という形ですね。3回だと効果が不十分ですし、5回だと~」となりそうです。
ところが、物語重視だと、
薬剤師「そうですね。~さんの生活スタイルにあわせて点眼して頂ければ結構です。」となりそうです。商人的には、これが好ましいと思われます。
ただ、薬剤師としては、例外を認める余地があるものの、原則としては、専門性重視でいきたいところでしょう。NBM論者なら、どのような帰結になるのでしょうかね?
また、特に日本では、すでに通常の商売において、NBMを実行しているところです。例えば、自動車のセールスでも、お客の家族構成・職業・趣味などを考慮して、「この車だと、休日など、お子さんを連れて、バーべQなどしやすいですよ。」などと、言ったりします。
その点に鑑みると、もし、NBMをそれほど重視する、というのなら、薬剤師を資格制にする必要はなく商売人に任せればよい、また、薬学部を6年制にして、専門性を深めることはナンセンス、という結論になりかねません。
③ そこで、NBMを重視し、それを紹介するとしても、EBMとの関係(特に両者がバッティングするときの取扱い等を、具体的ケースごとに)を意識して論じる必要性が極めて高い、と感じています。
NBMをそんなにEBM対極と考えなくても良いかと思います。
EBMに基づいて一日4回必要だったとして、4回をその患者にあわせて適当にぼやかすのではなく、
その患者さんの考え方、生活スタイル、様々な要件から最も効果を発揮する方法を一緒に検討してあげる、というような感じでよいのではないでしょうか?
例えば4回さすことが出来ない患者さんがいるとして、どうしてもムリならば、4回必要な薬を2回でまかなえるものに変えていくとか(もちろん4回のほうが100%で2回のほうが70%でも仕方ないとします、4回のを2回点眼されるよりましか?という考え方で。←これは適当な数字なので、この辺はEBMに基づき適切な助言を医師にしてください)
どんなにEBMにこだわっても、薬を服用(使用)する人はそれぞれの物語を持った各患者さんであるので、ロボットみたいに決められたとおりに出来ないのも認めてあげつつ、何が最良か?
そんな感じに自分は感じました。
>まじゃさん
そうですね。おっしゃる通り、柔軟に対応することは必要です。場合によっては、処方箋上、Dr.によって1日3回にすでに対処済みの場合もありますね。
ただ、自分の中では、NBMという概念を知る以前に、EBMが原則で、患者のストーリーにのっかかるのは例外、とルール化してありましたね。
それと、まじゃさんの意見を踏まえたとしても、原則通り、1日4回と言い切った方が良いって、経験上感じています。なぜなら、厳密性を重視しない患者さんは、1日4回って伝えてはじめて1日3回点眼もらうことができ、初めから「じゃあ、柔軟に~1日3回でもOKですよ」なんて伝えると、「じゃあ、もっと減らしても良さそうだな。」などと勝手に解釈し、1日1~2回止まりになる可能性が高いので。。。。。
補足です。上に述べた意見は「厳密性を重視しない、アバウトな患者さん」に限定した意見です。それ以外の患者さん(以前遭遇した患者さんでは、例えば、夜勤が多い患者さん)には、わりと、柔軟に対応しています。
それと、「物語」の例として他に頭に浮かんだのは(薬剤師よりも医師の方に関係ありそうですが)、「刹那的快楽を重視し、健康は2の次。酒とたばこをこよなく愛する。人生太く短く。」的な「物語」を有する患者さんの場合、NBM重視だと、どのように医療関係者として対応すべきか迷いませんか?酒・たばこが明らかに寿命を縮めるを分かっていても、その患者さんの「物語」に沿って、酒・たばこを吸うことを許可・容認する余地があります?考えてみると、非常に難しい問題ですよね。
>皆様
コメントありがとうございます。
まず改めて、私自身がNBMに対してしっかりとした理解ができていない可能性があることを白状した上で、コメントを書きます。
EMBとNBMというのは、対極の概念なのでしょうかね。今後変わるかもしれませんが、私は、現時点ではそう捉えていません。もちろん、私たち医療を提供する側はEBMに則った考え方や行動が必要なのは言うまでもありませんが…。
本文中で「NBMはEBMの一歩先を行く概念」という表現にしたのは、井手口氏の「新しい物語をつくる」という部分を受けてのものです。決して優劣をつけられるものではないことを補足します。
それからHY様の書かれた
> 「刹那的快楽を重視し、健康は2の次。酒とたばこをこよなく愛する。人生太く短く。」的な「物語」を有する患者さん
ですが、こういう方は決して少なくないとも感じています。
しかしそのような人においても一方で、「患者である=受診している」という現状もあるわけで、その部分の「物語」を掘り進めてゆくと、また違った物語(患者さん自身が気がついていないケースもある)が見えてくるのかもしれません。
井手口氏が話していた「新しい物語」とはそういうものを指すのかなと、書きながらふと思いました。
なるほど、「新しい物語」ですか。必ずしも、患者さんの既存の「古い物語」に固執する必要はない、ってことですね。
ただ、「刹那的快楽を重視し、健康は2の次。酒とたばこをこよなく愛する。人生太く短く。」的な「物語」を有する患者さんが生じてきた背景には、やはり現代の大量消費文明という非常に強固なトレンドが影響しているわけで(言うまでもなく、TV等のマスコミの影響で)、それを「新しい物語」に置き換えるのは、私はかなり困難ではないのではないか、と感じています。正直なところ。人間は(特に高齢者は)、それほど容易に過去から決別できない生き物でしょう。せいぜい、それを「修正」してあげるくらいですかね。
なので、上記考えを有する私みたいな薬剤師にとっては、上記患者さんに「具体的」にどのような「新しい物語」を提供すべきか、という点まで述べてもらって初めてNBMの有用性を理解できます。
また、「NBMとEBMは対立関係ではなく、補完関係です。」井手口さんとの指摘がありますが、おそらく、これは言葉の問題なのでしょう。私のように、原則・例外と言った思考習慣を持っている者に対しては、対立関係という方が理解しやすいです。
Narrative based Medicine は、翻訳サイトでは、「対話を重視した医療」と翻訳されました。日本人なのに、どうして英語を持ちだすのか、いろんな場面で首をかしげることが多いです。
>お二方
コメントありがとうございます。
NBMというのは、まだまだ共通認識を得るに至っていないのでしょうか。単に私が不勉強という話もありますが…(苦笑
「対話を重視した医療」というのは、分かりやすくていいですね。
>さわだ様
確かに現場にわかりやすい言葉の方がいいですね。個人的には賛成です。
でも、こういう理論を持ち出す方々は、学会発表とか国際社会を常に意識してるから、英語が主なんではないでしょうか・・・・