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薬価改定前の事前購入論争。なぜ上がる薬は批判され、下がる薬はスルーされるのか?

ウラ
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薬価改定のこの時期、3月になると必ずと言っていいほどSNSや業界内で巻き起こる、ある種の「風物詩」とも言える論争がありますよね。みなさんも一度は目にしたこと、あるいは議論に参加したことがあるのではないでしょうか。

そう、4月以降に「薬価が上がる薬」を、今のうち、つまり3月のうちに購入しておくべきかどうかという問題です。

薬局を経営している人たち、あるいは薬局の数字を任されている管理薬剤師の方々からすれば、「上がる前に買っておきたい」と考えるのは、ある意味で当然のことですよね。少しでも安く仕入れて、改定後の薬価で算定できれば、そこに利益が生まれますし、何より今後の仕入れコスト増を相殺することができます。

一方で、そうした経営的な数字の責任を直接負っていない立場の人たちからは、この行動に対して厳しい批判の声が上がります。「自分たちの利益ばかり優先して、患者さんのことを考えていない」「ただでさえ薬が足りないのに、買いだめをするなんて倫理的にどうなのか」と。

この対立、度々見かけますよね。みなさんはこの構図を見て、どう感じているでしょうか。

私自身は薬局を経営する立場の人間です。ですから、どちらかと言えば「コストが増加するもの、価格が上がるものはできるだけ先に購入しておきたい」という気持ちが強く働く側の人間です。これは経営者として、自分の会社や従業員を守るための、ごくごく自然な防衛本能だと思っています。

でも、ここでちょっと視点を変えて考えてみたいんです。私がこの時期になるといつも「なんだか面白いなぁ」と感じてしまう矛盾があります。

薬価改定って、上がる薬もあれば、当然下がる薬もありますよね。最近でこそ最低薬価が上がることに伴って、薬価が上がる品目もそれなりにありますが、むしろ下がる物のほうが多いのが常です。では、薬価が「下がる薬」に対して、現場ではどんな行動をとっているでしょうか。

答えは簡単ですよね。「購入を先送りする」んです。買い控え、とも言いますね。

改定前に高い価格で仕入れた薬を、4月以降に安い薬価で算定したら、多くの場合持ち出しが発生します。だから、3月は在庫を極力絞って月末ギリギリまで発注を粘る。そして4月に入って、新薬価になってから発注をかける。これ、どこの薬局でも当たり前のようにやっていることですよね。

上がる薬を事前に購入すること(買いだめ)は「悪」だと厳しく批判されるのに、下がる薬の購入を先送りすること(買い控え)については、なぜ誰からも何も言われないのでしょうか?

これ、すごく不思議だと思いませんか?

上がる薬を買うのも、下がる薬を控えるのも、根本にある動機は全く同じです。「自分の薬局の利益を守り、損失を避ける」という、経営上の経済的な合理性です。行動の向きが「前倒し」か「先送り」か違うだけで、やっていることの本質は変わりません。それなのに、片方だけが倫理観の欠如だと叩かれ、もう片方はスルーされる。この非対称な構図、本当に面白いですよね。

もちろん、事前購入を批判する人たちの言い分もよくわかります。特に今は、後発品を中心とした終わりの見えない医薬品供給不安の真っ只中です。「ただでさえ品薄で困っているのに、一部の薬局が利益目的で過度な買いだめをしたら、流通に支障をきたして、本当に薬を必要としている患者さんに届かなくなってしまうじゃないか!」という主張。これには、私も全面的に同意します。事実として、そうした側面は間違いなくありますからね。

普段は月に数箱しか出ないような薬を、薬価が上がるからといって何十箱も注文するような極端な行動は、医療機関として、地域のインフラを担う者として、慎むべきことでしょう。卸の担当者さんも困ってしまいます。そうした流通全体への影響や、他局、そして患者さんへの配慮は、経営者であっても絶対に忘れてはならない最低限のモラルです。

買い控えが批判されないのは、市場からモノが消えるわけではなく、表面的な「他者への迷惑」が見えにくいからなのかもしれませんね。実際には、卸さんの倉庫に在庫が滞留してしまったり、4月に入った瞬間に全国から発注が殺到して物流現場に一時的な負荷がかかったりと、見えないところで誰かに大きな負担をかけているわけですが、直接患者さんの不利益になりにくい分、批判の的になりづらいのでしょう。

しかし、そうした「流通への配慮」という大前提をクリアした上でなら、どうでしょうか。

薬価が下がるということは、自分の薬局の利益が国の方針によって強制的に削られることです。そしてそれがあらかじめ分かっている。ただでさえ利益率が下がり、人件費や物価は上がり続けている苦しい経営環境の中で、このマイナスは本当に痛いですよね。

それを少しでも補填したい、マイナスを最小化したいと考えるのは、薬局を経営していく上で、ごくごく自然な考え方であり、行動だと思いませんか?常識の範囲内で、薬局の経営を守るために先を見据えて発注を調整することが、なぜそこまで「悪者」のように言われなければならないのでしょうか。

現場で汗を流す勤務薬剤師の方々や、外部の視点から見れば、「医療機関なのだから、自分の利益よりもまずは患者さんや地域全体のことを最優先に考えるべきだ」という、純粋で美しい正義があるのは理解しています。彼らの目には、私たち経営者が利益に執着しているように映るのかもしれません。

でも、この議論って、お互いに見ている世界や背負っている責任が全く違うんですよね。経営側は「そこで薬局を続けていくことの重責と、従業員に給料を払い続けるための経済的合理性」で動いています。一方で批判する側は「医療人としての倫理と理想」で動いている。土俵が違うんですよね。

だから、いくらSNSで言葉をぶつけ合っても、何か良い結論が出る未来なんて絶対に見えないと思いませんか?きっと、どこまで行っても永遠に平行線をたどるだけなんです。

そう考えてみると、この時期にネット上で繰り広げられる正義と正義のぶつかり合いは、本当に不毛な争いですよね。相手を論破したところで、自分の薬局の経営が楽になるわけでも、患者さんへのサービスが向上するわけでもありません。ただただ、無駄に体力を消耗し、業界の中にギスギスした分断を生むだけです。

だったら、私たちが行うべきことは一つです。そうした考え方の違いや、相手へのもどかしさは、お互いあまり口に出さずに、自分の心の中だけにそっと留め置いておくのが一番なんじゃないかと。

自分のビジネスは、自分の責任でやる。上がる薬を少し厚めに買うのも、下がる薬をギリギリまで控えるのも、他人に迷惑をかけない範囲で、自分の経営判断として淡々と実行すればいいだけのことです。他人の薬局のやり方にわざわざ首を突っ込んで批判している暇があるなら、自分の日常業務、目の前の患者さんに集中するほうが、よっぽど生産的です。

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このブログを書いている人
くま☆

薬局で働く薬剤師
「薬局のオモテとウラ」(2006~)
日経DI:熊谷信の「薬剤師的にどうでしょう」連載中(2009~)
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