ふとした瞬間に、自分の立ち位置を再確認させられることがあります。先日、私の営む小さな薬局に、一人の若い女性が訪れました。目的は、先月ついに市販化され、薬局で直接購入できるようになった緊急避妊薬(アフターピル)です。
正直に言いましょう。私の心の中には、こうした場面に直面する際、どこかに申し訳なさが同居しています。もし自分が女性の立場だったら、わざわざこんな「おじさん薬剤師」がカウンターに鎮座している小さな薬局に、誰にも言えない不安を抱えて飛び込むだろうか、と。
しかも、当薬局のホームページはもちろん、厚労省が公表している緊急避妊薬の対応薬局リストにも、当薬局は「男性薬剤師が対応する」と明記されています。つまり、彼女たちは事前に私が「おじさん」であることを知った上で、わざわざここを選んで足を運んでくれているのです。
実は以前、実際に娘たちにこの疑問をぶつけてみたことがあります。返ってきたのは、「パパみたいな薬剤師より、絶対女性の薬剤師さんがいいに決まってるじゃん」という見事なまでの即答でした。バッサリと斬られましたが、それが世間一般の偽らざるリアルな感覚でしょう。
しかし、現実に彼女たちはやってきます。決して入りやすいとは言えない小さな薬局の扉を、勇気を出して叩いてくれる。そこには、利便性や品揃えだけでは割り切れない、地域薬局の「特異点」があるのではないか。今回はそんなお話をしたいと思います。
「匿名性」と「秘匿性」の違い
緊急避妊薬の市販化は、女性の権利やアクセスの面で大きな一歩です。と同時に、現場の薬剤師にとっては、処方箋というハードルがなくなり、対面での対応力や覚悟がより一層問われる状況になりました。
今の時代、医薬品を買うなら大型のドラッグストアが圧倒的に便利です。明るい店内、豊富な品揃え。他のお客さんに紛れ込むことができる「匿名性」は、デリケートな買い物をする際の大きな安心材料になります。ドラッグストアの存在が救いになっている人は数え切れないでしょう。
ただ、その一方で、そうした「開かれた明るい空間」を避ける層が一定数、確実に存在します。知り合いに会うかもしれないという懸念や、他のお客さんが近くにいる空間で、緊急避妊薬について説明を受けることへの心理的ハードルです。
対して、私のところような薬局は、良くも悪くも「こぢんまり」としています。一歩踏み込めば、そこには患者さんと私のほぼ一対一の空間が待っている。この「密室」に近い「秘匿性」こそが、不安のピークにいる人にとっては、最後のセーフティネットになることがあるのです。
おじさん薬剤師という、一見すると「避けたい対象」であるはずの存在が、「家族でも友人でもない、しかし守秘義務を持った第三者」として、絶妙な距離感を生んでいる……というのは、少し自分を正当化しすぎでしょうか。
組織のマニュアル対応と、個人の「小回り」
緊急避妊薬には「72時間以内」という厳然たるタイムリミットがあり、夜間や休日であっても待ったなしの対応が求められます。
もちろん、現在の大手ドラッグストアやチェーン薬局も夜間・休日の体制はしっかりと敷いているはずですし、電話をすればきちんと連絡はつくでしょう。対応できないわけでは決してありません。ただ、勤務薬剤師が中心となる大きな組織では、コンプライアンスやルールの枠組みがある分、どうしても対応がマニュアル化してしまい、イレギュラーな事態に対する「柔軟な対応」が難しい場面もあるのではないかと推測します。
その点、私のような小さな薬局の主(あるじ)であれば、圧倒的に小回りがききます。深夜に電話が鳴れば、寝起きの坊主頭をさすりながらそのままシャッターを開け、患者さんの事情に合わせて臨機応変に薬をお渡しし、話を聞くことができるのです。この「非効率だけれど柔軟な存在」が、地域の隅っこに一つくらいあってもいいのではないか、と思うのです。
少数派の受け皿としての矜持
結局のところ、私が追求しているのは「少数派(マイノリティ)のための薬局」なのかもしれません。100人のうち99人が、入りやすく便利な大型店を選んだとしても、残りの1人が「ここなら静かに一対一で話せる」「すぐに対応してもらえる」と思える場所。その1人の期待に応えることこそが、私がこの地で薬局を続けている原点でもあります。
薬を手渡し、必要な説明とケアを行い、最後にかける言葉を慎重に選ぶ。先日来てくれた彼女の去り際の背中を見送るときも、私は「おじさんでごめんよ」と心の中で呟きつつ、同時にこの仕事の重みを噛み締めました。
地域に貢献したいという大層な志を掲げて始めた薬局ですが、結局のところ、誰かの一番心細い瞬間に立ち会い、その不安をほんの少しだけ肩代わりさせてもらう。日々の業務はその積み重ねなのかもしれません。
見た目はおじさん(しかも坊主頭)、中身は地域に根ざした一人の専門職。これからも、そんなアンバランスな立ち位置を目指して、誰かの「駆け込み寺」であり続けたいと思う今日この頃です。
さて、ここから先は、実際に私の薬局へ緊急避妊薬を求めて女性がやってきた際、私がカウンター越しに何を考え、どう振る舞っているかという「超・実践的なノウハウ」をお話しします。
絶対に地雷を踏まない「透明な接客術」
同世代の男性薬剤師であれば、「若い女性へのデリケートな薬の販売なんて、セクハラやクレームになりそうで怖い」「どう接していいか分からない」というのが本音ではないでしょうか。私が現場で導き出したおじさん薬剤師の生存戦略、それは






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