2006年にこの「薬局のオモテとウラ」を始めてから、気がつけば20年以上の歳月が流れました。日々の薬局業務の中で感じたことや、調剤報酬改定、医薬品関連の備忘録として書き溜めてきた雑記が、まさかこのような形で日の目を見るとは思ってもみませんでした。
先日、日本大学法学部国際知的財産研究所の曽我諒氏より一通のメールをいただきました。氏が執筆された論文「アテレック錠の形状の特許登録は後発医薬品の形状にどれ程影響したのか」が学術誌に掲載されるにあたり、このサイトの2006年の記事を引用したというご報告でした 。
「日本大学知財ジャーナル」vol.19は、こちらからご覧いただくことができます。
引用された論文はこちらです。
アテレック®錠の形状の特許登録は後発医薬品の形状にどれ程影響したのか
https://www.publication.law.nihon-u.ac.jp/pdf/property/property_19/each/09.pdf
2006年の「あの日」の記録が、歴史の証明に
引用されたのは、2006年12月7日に投稿した「アテレック錠10が割線入りに」という記事です 。
当時、アテレック錠10mgが丸い形から割線入りの楕円形へと、大きな形状変更を行いました 。論文の中では、この形状変更が具体的にいつ発表され、いつ頃から現場に流通し始めたのかを特定するための「重要な手がかり」として、この記事の記述や、掲載していた案内パンフレットの画像が活用されています 。
ネットの片隅に置いた当時の備忘録が、20年後の知財研究において「事実を裏付ける資料」として認められたことは、感慨深いものがあります。
論文が解き明かす「ジェネリックの謎」
今回掲載された論文の内容、私たち薬剤師にとって非常に興味深いものでした。
後発医薬品は、PTPシートや錠剤の形状を先発医薬品に似せるケースが多いですが、アテレック錠、さらに言えば10mg錠に関しては当てはまりません。「なぜアテレック錠10mgのジェネリックには、先発品のような割線がないのか?」と疑問に思ったことはありませんか? 5mgや20mgの規格には先発品に似た形状があるのに、10mgだけは頑なに「依然として割線のない丸い錠剤」のままなのです 。
論文ではその理由について、アテレック錠の特定の形状が「特許」(=形状特許)として登録されていることが、後発品メーカーの設計に大きな影響を与えているのではないかと考察されています (そしてその特許は現在も効力が維持されているのだとか)。
- 知財の壁:アテレック錠10mgの「両面割線入り・楕円形」には形状に関する複数の特許が存在する 。
- 現場への影響:割線があれば半錠調剤が容易になるが、特許があるために後発品メーカーは利便性の高いその形状を採用できない可能性がある 。
- 薬剤師の苦労:結果として、後発品では分割ではなく「粉砕」を選択せざるを得ないケースが出てくるが、光に弱いシルニジピンを粉砕することは、薬剤の安定性の観点からあまり好ましくない 。
継続は力なり、あるいは「記録」の価値
「あの時のパンフレット、捨てずにとっておいて、写真に撮ってブログにアップしておいてよかった」
今回の件を通じて、日々の何気ない業務の記録が、時間が経つことで思わぬ価値を持つことを実感しました。学術論文という、私自身の日常とは少し離れた世界で自分の名前を見つけるのは、少し照れくさく、でも誇らしい経験です 。webの流行りや隆盛、また自分が年齢を重ることで発信の内容は変わってきていますが、何らかの形で今後も継続していきたいと考えています。
しかし、同じ「アテレック錠」という医薬品を扱いながら、知的財産という観点からここまで現場に踏み込んだ研究のアプローチがあることには、率直に驚かされました。また、別の角度からの視点が加わることで、私たちの業務に対する理解が深まる助けにもなると感じます。
錠剤の「形状」が特許として登録され、それが後発医薬品の設計、ひいては私たちの調剤業務(分割か粉砕か)にまで影響を与えているという事実は、薬学的な視点だけでは見えてこない、非常に興味深い視点です。世の中には、こうした「知財」という切り口で医薬品や医療業界の奥深さを解き明かす、面白いことを研究されている方がいらっしゃるのだと(もちろん、最上級の褒め言葉として!)、改めて深く感じ入りました。







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