会社を経営している人や、これから独立して自分の薬局を持とうとしている薬剤師の方であれば、「資金調達」は避けて通れないテーマです。
銀行からお金を借りる時、一番に何を気にしますか?経営者の多くはどうしても「金利」ばかりに目が行きがちです。「A銀行は〇.〇%だったけれど、B銀行はそれよりも0.1%金利が低いからB銀行にしよう」といった具合に、目先のわずかな金利差に一喜一憂してしまう。たしかに金利はものすごく分かりやすいですし、コストを数字で判断できるので目が向いてしまいます。かつての私もそうでした。
もちろん、無駄なコストを削るという意味で金利にシビアになるのは経営者として正しい姿勢です。しかし、中長期的な会社の存続、つまり「絶対に薬局を潰さないためにどうするか」という視点に立った時、金利の安さだけで融資先や融資の種類を選んでしまうのは、実は非常に危険な落とし穴になり得ます。
今回は、普段の調剤業務からは見えてこない、薬局を運営する法人経営の「資金調達のリアルな実情」についてお伝えします。
融資の基本、「制度融資」と「プロパー融資」の違い
ご存じの方も多いと思いますが、前提として、銀行の融資には大きく分けて「制度融資」と「プロパー融資」の2種類があります。
- 制度融資とは 市町村や都道府県などの自治体が関与し、信用保証協会という公的機関が保証人になってくれる融資のことです。万が一、あなたの会社(薬局)が倒産してお金を返せなくなったとしても、信用保証協会が代わりに銀行へお金を返してくれます(代位弁済と言います)。つまり、銀行からすれば「貸し倒れリスクがほぼゼロ」の非常に安全な商品です。リスクがないため審査も比較的ゆるく、創業時の実績がない状態でも割と簡単に借りることができます。一般的に、この保証協会付きの無担保融資枠は8,000万円くらいと言われています(会社の規模によっては上限が8,000万円以下のこともあります)。
ちなみに、もし本当に経営が厳しくて保証協会が返済をしてくれても、借りたお金を返さなくていいということではないので、注意が必要です。 - プロパー融資とは 信用保証協会を挟まず、銀行が直接その会社を信用して貸し出す融資です。もし会社が倒産すれば、銀行は貸したお金を丸々損することになります。銀行が100%のリスクを背負うため、審査は厳しく、決算書の数字だけでなく、経営者の資質や将来性などもシビアに評価されると言われています。プロパー融資を引けるというのは、それだけ「銀行から信用されている、実績のある会社」であるという何よりの証拠でもあります。
なぜ「借りやすい」制度融資ばかりではダメなのか
さて、ここからが本題です。
制度融資は審査がゆるく、金利も低く抑えられることが多い。だったら「枠の限界である8,000万円まで、全部制度融資で借りてしまえばいいのでは?」と考えるかもしれません。しかし、これこそが私が警告したい一番の罠です。
なぜなら、制度融資の枠(8,000万円)は、経営の「最後の命綱」として絶対に温存しておかなければならないからです。
薬局経営は、常に順風満帆とはいきません。私たちの業界には、経営努力だけではどうにもならない外部要因のリスクが山ほどあります(どんな業界でもそうですが)。
- 2年に一度の(理不尽な)調剤報酬改定による大幅な減算
- 薬価改定による薬価差益の急激な縮小
- 近隣クリニックの突然の閉院
- 近隣への強力な競合薬局の出現
- 管理薬剤師の突然の退職による、高額な派遣薬剤師の雇用(人件費の高騰)
このように、何かしらのトラブルで急激に業績が傾き、財務状況が悪化したとします。立て直すためには当然、当面の運転資金が必要です。
本当に怖い「いざという時」とは
しかし、赤字に転落し、財務が悪化した会社に対して、銀行は「プロパー融資」では絶対に一円も貸してくれません。銀行も営利企業ですから、回収見込みのない危ない橋は渡らないのです。よく「銀行は雨の日に傘を貸さず、晴れている日に貸す」なんてことが言われますよね。
業績がどん底で、一番お金が必要な苦しい時。そんな時に唯一頼りになるのが、公的機関である「信用保証協会」が付いた制度融資です。彼らは中小企業を救済する目的も持っているため、一時的な業績悪化であっても、合理的な再建計画があれば保証を引き受けてくれる可能性が高いのです。
ですが、「金利が安いから」「審査がゆるいから」という理由で、平時の業績が良い時にこの保証枠を上限まで使い切ってしまっていたらどうなるでしょうか?
いざという時に使えるカードが、もう一枚も残っていないのです。銀行のプロパーも通らない、保証協会の枠も空いていない。資金繰りがショートし、そのまま倒産、あるいはジリ貧で潰れていくしかありません。
命綱を温存する。プロパー融資の金利は「保険料」
だからこそ、業績が良くて財務が健全な「普段の時」にこそ、審査の厳しいプロパー融資で資金を調達しておくべきなのです。
私も経験がありますが、銀行との交渉はめちゃめちゃ骨が折れます(新規であれば尚更です)。決算書はもちろん、試算表や他行からの借入の状況、個人資産の提出まで求められることもあります。借入に伴うコストについては、保証協会の保証料がかからない分、プロパーの方が実質的なトータルコストが安くなることもありますが、銀行が初めてリスクを負う際や少し不安要素がある場合には、表面上の金利を少し高めに提示してくることもあります。
しかし、その少しの金利差や交渉の手間は、会社を存続させるための「保険料」だと割り切るべきです。
高い金利を払ってでもプロパー融資で実績を作り、万が一の有事に備えて保証協会の枠を余裕のある状態で空けておく。一見すると無駄な借り入れ・金利に見えますが、これこそが、会社とそこで働くスタッフを守ってくれるのです。
目先の金利の安さにとらわれて命綱を手放すか、少しのコストを払ってでも有事の際の最強のカードを温存するか。経営の分かれ道はここにあります。
まとめ:あなたの会社はプロパー融資を引けていますか?
薬局を経営しているこれをお読みの方に、ぜひ確認していただきたいことがあります。現在の借入金の内訳はどうなっていますか。全てが保証協会付きの制度融資で埋まっていませんか?そして今、銀行からプロパー融資を引き出せるだけの関係性を築けていますか。
もし、制度融資の枠をパンパンに使ってしまっているなら、次の借り換えや決算などのタイミングで、銀行の担当者に少しずつでもプロパー融資への切り替え、あるいは併用ができないか交渉を始めてみてください。最初はハードルが高いかもしれませんが、トライする価値があると思います。
金利の安さではなく、「いざという時の資金調達力」こそが、薬局と従業員を守る本当の盾になるはずです。






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